
就職活動から得られること
事業環境が目まぐるしく変化する現代にあっては、今日役に立つスキルが一○年後も同様に重要である保証はまったくない。
したがって、四○年間というスパンで特定のスキル人材を抱え込むことは、将来、不良資産化するリスクを抱え込むことにすらなるのである。
したがって、これからは事業展開の変化に応じて必要になるスキル人材とその労働成果を、スポットごとにそのつど適正な価格で購入するという発想が求められる。
たとえば大きな研究開発成果をあげてくれた者ならば、研究開発活動に必要な経費も差し引いた利益を会社と当人で折半するということも考えられるし、一○億円の営業利益をもたらす営業マンに対して人事マネジメントがスポット型になると、企業と労働者のあいだで合理的かつ明快な雇用関係が結べる一方で、従業員の会社に対する帰属意識やロイヤリティが希薄になる恐れがある。
いくら〃家″の概念が過去のものになりつつあるとはいっても、やはり企業活動には社員の帰属意識とロイヤリティをベースにした継続性が求められる。
その重要な側面が損なわれる可能性を生じさせる点が、スポット型マネジメント一本槍による弊害だといえよう。
そこでスポット型の弱点を補う意味も含めて、もう一つの基軸になるのが多様化高コスト型マネジメントである。
ように、マニュアルレーバー時代は業務内容が単純で労働成果の計測も比較的簡単だったので、業績評価もシンプルで手間のかからない方法で行うことができた。
つまりすべての従業員を同じような尺度で一括して評価すればよかったのだ。
報酬や異動・キャリアパスの対価を支払っても最終的にはペイするというぐらいの考え方も成立する。
その考え方に基づいて、一つの事業展開局面ごとに特定の能力を持った人材と雇用関係を結んでいく。
まさしく終身雇用や年功序列と真正面から対立する概念だから、戸惑う経営者も多いかもしれない。
このスポット型マネジメントを実行しなければ、優秀な人材を獲得することは難しい。
優秀な人材ほど、ストックとして企業の中に固定化されることを拒絶するからであスもシンプルに処理することができた。
年功序列的な一律平等の昇進と昇給だけでほとんどの従業員が満足したからである。
さらに採用、教育・育成といった人事機能も、すべて同じように手間のかからないものだった。
業務がマニュアルレーバーであるがゆえに、低コスト一律型マネジメントが通用したのである。
業務が非定型なヒューマンワークになり、そのうえ労働目的が生活給の確保から労働者の自己実現へと変化した今となっては、手間のかからない全員一律型マネジメントによっては適材適所とモチベーションの極大化という人事マネジメントの目的を達成することはできない。
あらゆる人事制度において、マネジメントの手法を抜本的に変えざるを得ないのである。
とくに変革が求められるのは、評価と報酬に関わるマネジメントだろう。
かたや業務そのもの岬の特性、かたや個人の資質や希望に合わせて、評価や報酬の基準を多様化しなければならない。
暇平等一律の安易なやり方では、モチベーション管理や帰属意識の維持が難しくなるだけでなく、私適材適所を図るための判断基準さえ得られないのだ。
もちろん、それだけ多様化した複雑なマネジメントを行えば、人手も金もかかる。
従来の一律型マネジメントに比べれば、圧倒的に高コストになるのは間違いない。
それでも業務と人材の持つ多様性を合理的に処理するマネジメントシステムを構築しなければ、ヒューマンワーマク時代の経営は成り立たないのだ。
まず必要になるのは、業務特性の分析である。
全社の運営を行うのに必要なあらゆる業務を洗い出し、その業務を有効にこなすために必要なスキルや適性を把握することだ。
たとえば大相撲の本場所を運営するなら、力士だけでなく、行司、勝負審判、呼び出し、場内アナウンスなどさまざまな能力が必要になる。
サッカーチームを作るなら、フォワード、ミツドフィルダー、バックス、ゴールキーパーが揃わなければ戦えない。
さらに現在のチーム事情によって、身長が高くてヘディングの強いセンターフォワードが必要になったり、攻撃力を併せ持ったサイドバックが必要になったりするだろう。
そういう具合に、組織として必要なスキルや適性をトータルに把握するのである。
そういった自社の業務特性の分析を行う一方で、社員一人一人の個性や能力を把握する。
ただ単に学歴や家族構成を整理するだけにとどまらず、技能や知識の得意分野と不得意分野、性格的に向いているジョブタイプ、インセンティブの内容、キャリアに対する希望などである。
同じような能力や資格を有している人材でも、昇給で報いたほうがやる気の出るタイプと、仕事の裁量権を拡げたほうがより頑張るタイプがいるわけだから、かなり詳細な意向調査や性格分析までこうして得られた業務特性と人材特性の二つのデータベースをマッチングさせることによって、適材適所の実現が初めて可能になる。
そのうえで、業務タイプ別あるいはセクション別に、業績評価の項目や業績の計測方法を設定する。
それにしたがって個人の業績を的確に評価し、それぞれの人材が求めている報酬のスタイ必要だろう。
嘗て日本企業の人事制度は、終身雇用や年功序列に合致したタイプの機能を備えていた。
つまり、採用、評価、報酬、異動・キャリアパス、教育・育成、労務、代謝という七つの機能が、いずれもストック型マネジメントと一律低コスト型マネジメントという基軸に対応していた。
ところが、その基軸そのものが転換を迫られている。
当然、新しい基軸であるスポット型マネジメントと多様化高コスト型マネジメントに合致するようなかたちで各機能も変質しなければならない。
従来型のマネジメントからは想像もつかないほど煩雑な作業だが、こうしたきめ細かい多様化型のシステムを整備しなければ、個々の人材のモチベーションとジョブロイヤリティを維持・向上させ、企業全体のアウトプットを極大化することはできない。
たとえばサッカー選手を相撲部屋のようなやり方で管理しても有効ではないのと同じように、企業も社員一人一人の業務の内容に合った管理方法を採用しなければならないわけだ。
どんな種類の業務であれ、今後はその業務特性と個人の特性とのマッチングを最大限に配慮するようなプロフェッショナル型のマネジメントが求められるのである。
これまで日本の常識だった新卒の一括採用は、ヒューマンワークの時代に適応するものではない。
員数管理のための新卒への過剰依存は、あくまでもピラミッド組織を維持するという前提があったからこそ合理性を保つことができたのだ。
全員を社長候補とする単線の採用や、家族として企業独特のモラルやメンタリティを共有できるタイプばかり集める同質型人材の採用も、多様な能力と資質を求めるヒューマンワークに相応しくない。
集団モラルの水準が企業の競争力を決めるマニュアルレーバーの時代はすでに終わったのだ。
重要なのは、員数より一人一人の質とタイプである。
自社の事業に対する適性を持つ保証のない者を一○○人採用するより、高い適性を持った者を一○人採用したほうが会社への貢献は遥かに大きいというのが、ヒューマンワークの特徴なのだ。
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